不眠症は「睡眠障害」の一種であり、睡眠の質と量が日常生活に影響を及ぼす状態を示しています。
このような状態は一時的な状態から慢性的(長期的)な状態でも分類されますが、睡眠の問題が3ヶ月以上継続する場合に「不眠症」と診断します。
不眠症は下記の4つに分類されますが、実際の不眠症の理由は明確に1つに絞られておらず、それぞれのタイプが混在していることが多くなっています。
近年、不眠症をはじめとする睡眠に関わる問題を抱える方が増加傾向にあると言われています。
実は、成人の約10%が「不眠症」の症状を経験しているとされ、年齢とともにその数は増加する傾向にあります。また、睡眠薬の服用率は成人で3~10%とも言われており、この数も年齢とともに増加する傾向にあります。
不眠症と生活習慣には密接な関係があります。
不定期な就労時間、習慣的な夜更かし、生活が昼夜逆転しているなど、規則正しい生活ができない場合、不眠症のリスクが生じやすくなります。
就寝時間と起床時間が一定である人ほど、不眠症に悩むことは少なくなります。
また、睡眠のリズムだけでなく、運動習慣や飲酒、喫煙、食生活なども不眠となる関連性があります。例えばコーヒーや紅茶などに含まれるカフェインやタバコに含まれるニコチンなどには覚醒作用があり、安眠を妨げます。カフェインには利尿作用もあり、トイレ覚醒も増えるため不眠を近づける要因となります。
精神的なストレスは、気持ちに負荷を与えることにより不眠の原因となります。
仕事上の心配や人間関係、ご家族の病気や金銭的な不安など、人それぞれ抱えている悩みは個々に異なりますが、気持ちに負荷が掛かっている状態が睡眠に影響を与える要因となります。
また、自覚できるストレスではなく、無意識に負荷となっているストレスが原因のこともあり、この場合にはご自身で問題を感じにくいため、不眠の原因が特定できずに長期に渡って悩まされることがあります。
心のバランスが崩れると、睡眠に影響を及ぼします。
精神が安定しないことにより不眠になったり、不眠が影響して精神が安定しなかったりと、心の状態と睡眠には密接な関わりがあります。
睡眠に影響を及ぼす疾患として下記のような精神疾患があります。
これらの精神疾患と睡眠には相互作用があります。
睡眠の問題ではなく実際には精神疾患の問題だった、ということは珍しくありません。
これらの疾患が原因で不眠に悩んでいる場合、まず治療すべきは不眠症ではなく精神疾患になります。精神疾患の治療をすることで睡眠の改善が期待できます。
閉塞性睡眠時無呼吸は、睡眠中に呼吸が停止または浅くなる病気です。症状には、ひどいいびき、睡眠中の息止まり、夜間の頻繁な目覚め、疲労感、昼間の居眠り、血圧上昇などがあります。肥満が一因ですが、アジア人のように肥満でなくとも顎の小さい人種にも見られます。自覚症状がない場合もあり、発見が遅れることがあります。
OSASの放置は心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、高血圧などのリスクを高め、うつ病の悪化や交通事故のリスクも増加します。治療にはCPAP療法やマウスピースなどがあり、これにより健康リスクや死亡率を減少させることが可能です。いびきや無呼吸の自覚があれば、当クリニックへご相談ください。
レストレスレッグス症候群、別名むずむず脚症候群は、下肢に感じる不快感や異常感覚によって入眠困難を引き起こす睡眠障害です。これには、以下の四つの特徴があります。
原因は必ずしも明らかではありませんが、鉄欠乏性貧血、妊娠、透析、脳神経疾患、お薬の副作用、カフェインやアルコールの摂取、喫煙などが関連していることがあります。治療法としては、睡眠習慣の改善、カフェイン・アルコール・喫煙の制限などの非薬物療法に加え、患者様の状況に応じて鉄剤、ドパミン製剤、抗てんかん薬などの薬物療法を併用します。
周期性四肢運動障害は、睡眠中に四肢が不随意に動くことで休養感が得られず、多くの場合、頻繁な中途覚醒を引き起こす睡眠障害です。この症状について患者様自身が気づかないことが多いため、ベッドパートナーや同居するご家族の観察が役立ちます。この障害はレストレスレッグス症候群の関連疾患とされ、両者は併発することがあります。レストレスレッグス症候群による入眠困難と周期性四肢運動障害による休養感の欠如が同時に起こると、不眠症と誤診されることがあります。治療法はレストレスレッグス症候群と似ていますが、周期性四肢運動障害の確定診断には睡眠検査が必要とされます。
この睡眠障害は、理想の睡眠時間と体内時計のズレにより多様な不眠症状を引き起こすものです。これは、睡眠・覚醒リズムの型に応じて、睡眠・覚醒相後退障害、睡眠・覚醒相前進障害、不規則な睡眠・覚醒リズム障害、非24時間型睡眠・覚醒リズム障害、時差障害、交代勤務障害に分けられます。診断に際しては、睡眠日誌や活動量計を使った睡眠スケジュールのチェックが有効です。概日リズム睡眠・覚醒障害は通常の睡眠薬には反応しにくいため、生活習慣の改善、メラトニンの調節による治療、または高照度光(特に日光)を利用した治療が行われます。これらの治療は睡眠・覚醒リズムの乱れを整えるのに役立ちます。
高血圧や心臓病、呼吸器疾患(咳、喘息、COPDなど)、腎臓病、前立腺肥大(頻尿や残尿感)、糖尿病、関節リウマチ(朝にかけての痛み)、アレルギー疾患(かゆみ)、脳出血や脳梗塞などさまざまな身体の病気で「睡眠障害」が生じます。
未発見の病気や、あるいは治療中の病気がその原因になっている可能性があり、そのような場合は背景にある病気の治療をすることで、睡眠障害はおのずと消失します。
また、治療薬自体が不眠をもたらすこともあります。
身近なお薬としては降圧剤(血圧を下げるお薬)が睡眠を妨げる原因になり得ることが知られています。それ以外にも甲状腺製剤や抗がん剤なども不眠の原因になり得ます。
一方で、花粉症やアレルギー症状に対して使用される抗ヒスタミン薬は日中の眠気をもたらすため、夜間の睡眠不足による眠気なのか、お薬の副作用による眠気なのかを正確に把握する必要があります。
不眠症が一時的な場合、日々の生活に少し影響を与える程度ですが、慢性的なものになると生活の質(QOL)を大きく低下させ、重大な身体的もしくは精神的な健康問題を引き起こす可能性があります。
不眠症は、睡眠の質や量に関連した下記のような症状を引き起こします。
診断には大きく分けて下記の2通りの方法があります。
不眠症の診断にはご自身の生活を振り返った質問が有用になります。
下記が、具体的かつ客観的な不眠症の評価の指標として広く用いられており、いずれもご自身で質問に回答し、回答点数が高ければ不眠症状が強いと判定されます。どれも日常的な睡眠に関する質問に回答するのみであり、お気軽にセルフチェックを行っていただくことが可能となります。
医師による診察は、患者様の主訴や病歴を詳しく聴取することから始めます。
睡眠の質や時間、睡眠習慣、生活習慣、仕事や家庭環境、身体的かつ精神的な疾患の有無など、不眠症の原因となり得る要素を把握します。
不眠の程度はセルフチェックで用いたような質問を元にして評価しますが、必要に応じて、心電図、血液検査、脳波検査(EEG)、睡眠検査(PSG)などを行い、患者様の身体的な病態や睡眠障害の有無を確認します。
これらの検査を総合的に判断し、不眠症かどうかを診断します。
また、不眠症の国際的なガイドラインの考え方として睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)における不眠症の診断基準があります。
本基準では、①眠る機会や環境が適切であるにもかかわらず、②睡眠の開始と持続、安定性、あるいは質に持続的な障害が認められ、③その結果、何らかの日中の障害をきたす場合に「不眠症」と定義されます。
そのため、入眠困難や中途覚醒などの不眠症状の存在だけでは不眠症とは診断されず、これらによって日中の機能障害が生じてはじめて不眠症と診断されます。
不眠の原因となりうる病気が疑われた場合、血液検査でのスクリーニングを行うことがあります。例えば、甲状腺ホルモンや副腎ホルモンの異常は、それに伴う症状によって不眠の原因となり得ます。
甲状腺ホルモン(TSH、freeT3、freeT4)の異常をきたす病気としては、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、甲状腺機能低下症(橋本病)、脳下垂体腫瘍などがあります。甲状腺機能障害の有病率としては男性よりも女性が高く、不眠以外に症状がないか注意が必要です。
副腎ホルモン(ACTH、コルチゾール)の異常をきたす病気としては、副腎腫瘍や脳下垂体腫瘍などがあります。
また、治療中の病気がある場合、それが不眠の原因になっていないか確認する必要があり、治療経過の確認のために採血が必要になる場合もあります。睡眠薬を使用する前には、肝機能や腎機能に異常がないか確認しておくことが大切です。
中途覚醒や熟眠障害の原因として睡眠時無呼吸症候群は疑う頻度が高い病気です。睡眠時無呼吸症候群の診断には、主に以下の3種類の睡眠検査が用いられます。
この検査は主に自宅で行われます。 呼吸努力、鼻口の気流、酸素飽和度、心拍数を測定するセンサーを着用します。これらのセンサーは睡眠中のさまざまな生理学的変化を記録します。簡易ポリソムノグラフィは、比較的簡単に行え、患者様が普段の睡眠環境で検査できるため、睡眠時無呼吸の「スクリーニング」に適しています。
簡易PSGより詳しく検査できるポータブルモニターを用い、自宅において、 下記の終夜睡眠ポリソムノグラフィと同じ目的でおこなう検査です。機器の種類によって計測できる項目は異なり、特に脳は測定の有無で大きく分かれます。終夜睡眠ポリソムノグラフィと比べてナルコレプシーなどの過眠症や周期性四肢運動障害などの睡眠関連運動障害、REM睡眠行動障害などの睡眠時随伴症や睡眠関連てんかんなどを診断することはできません。
これは睡眠時無呼吸の最も詳細な評価を行うための検査です。 検査は専門の入院施設にて行われます。 脳波、眼球運動、筋肉活動、心電図、呼吸努力、気流、酸素飽和度など、より広範なデータを収集します。この検査では、睡眠の各段階、睡眠中の呼吸パターン、ほかにも先述したような周期性四肢運動障害などその他の睡眠障害の存在をより詳細に分析できます。当クリニックでは簡易ポリソムノグラフィの結果や他の検査結果から、必要と判断された患者様は提携の専門病院に紹介させていただきます。
不眠症の治療においては、普段の生活の中で改善できることを洗い出し、対策を行うことが治療の第一歩となります。眠れないからといってすぐにお薬に頼るのではなく、まずは自身の生活を見直すことから始めましょう。以下は具体的な改善項目となります。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、GABA(γ-アミノ酪酸)という神経伝達物質の活動を増強することで催眠効果を発揮します。GABAは中枢神経系での抑制作用を持つため、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の服用により、脳の過剰な興奮が抑えられ、睡眠へと導かれます。
他の作用機序をもつ睡眠薬と比較して、ベンゾジアゼピン系は依存性や耐性のリスクが高い点が特徴です。非ベンゾジアゼピン系(例:ゾルピデム)は、構造が異なり、より特定のGABA受容体サブタイプに作用するため、副作用が少ないとされています。
以下の通りベンゾジアゼピン系睡眠薬の種類によって作用時間が異なり、患者様の症状や生活リズムに応じて適切な薬剤が選択されます。
副作用としては、日中の倦怠感、ふらつき、記憶障害、また長期使用による依存症や離脱症状があります。高齢者では転倒や認知機能の低下のリスクも指摘されています。そのため、これらの薬剤は短期間の使用に留め、慎重な管理が必要となります。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系と異なり、より選択的にGABA受容体の特定のサブタイプに作用します。これにより、睡眠の誘導と維持を助けつつ、ベンゾジアゼピン系のような広範囲な中枢神経系への影響を減らし、副作用を低減します。
代表的な非ベンゾジアゼピン系睡眠薬には、ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロンがあります。これらは短期間の不眠症治療に用いられ、一般的にベンゾジアゼピン系に比べて依存性や耐性の発達が少ないとされています。ただし、副作用としては、眠気やふらつき、稀に記憶障害や異常行動を引き起こす可能性があります。これらの薬剤も慎重な処方と管理が必要となります。
メラトニン受容体作動薬は、体内のメラトニン受容体に作用することで睡眠リズムを調節し、自然な睡眠を促進します。具体的な薬剤には、ラメルテオンやタシメルテオンがあります。
これらのお薬は、特に睡眠リズムの乱れが原因の不眠症に有効で、睡眠の質を改善するのに役立ちます。副作用は比較的軽度となっており、頭痛や眠気、めまいなどが報告されています。依存性や耐性のリスクが低いため、長期間の使用にも適しています。
オレキシンという神経伝達物質は覚醒を促進する役割を持つため、その活動を阻害することで催眠効果を発揮します。
具体的な薬剤には、スボレキサントやレンボレキサントがあります。副作用としては眠気やめまい、頭痛が挙げられます。依存性や耐性のリスクは比較的低いとされていますが、個々の患者様の状況に応じた慎重な使用が必要となります。
不眠に対して以下のような漢方薬を使用することがあります。
患者様個々の体調や生活環境を詳しく聴取させていただき、不眠の原因を考えていきます。自覚していない他疾患の影響が不眠の影響となっていないか、内科的な広い知識から検討し、必要に応じて検査を行います。不眠の原因が他の病気でないと判断できれば、不眠に対する治療を開始します。
ヒアリングさせていただいた結果から睡眠薬を使用する前にできることがないかを患者様と一緒に考えていきます。
必ずしも全ての患者様が理想的な生活習慣を過ごせるわけではありませんが、個人個人の事情を理解し、現実的に改善できるポイントを抽出して睡眠薬に頼らない不眠症治療をご提案します。
生活習慣の見直しだけでは睡眠が改善されない場合、睡眠薬の処方を開始します。
上記でお伝えした通り睡眠薬にも多種多様な種類があるため、患者様の生活習慣に合わせた睡眠薬を選択し処方します。処方開示時は短期間の処方としてお薬の効果を検証し、必要に応じて異なる種類に変更していきます。
当クリニックではオンライン診療も行っています。オンライン診療の場合、初診の方(不眠症での受診歴がない方)は厚生労働省の定めるルールに伴い処方できないお薬もありますが、再診からは対面診療と同じ内容のお薬を処方することが可能となります。
身体診察や血液検査などを必要としない場合、オンラインでの診察は非常に便利です。お薬もオンラインで服薬指導を行い、自宅に届くシステムとなっているため、受診をするお時間がない患者様にはぜひオンラインでの診療をお勧めしています。