アトピー性皮膚炎とは、かゆみのある湿疹が慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返すアレルギー疾患です。皮膚には本来、外界の刺激から体の内部を保護するバリア機能が備わっていますが、バリア機能が低下するとかゆみを感じやすい状態となり、掻くことでさらにバリア機能が低下するという悪循環に陥ります。
乳幼児期に発症したアトピー性皮膚炎は、未熟だった皮膚のバリア機能が成長するとともに改善される傾向があるといわれていますが、実際には大人になっても症状が持続する場合や、大人になってから発症するケースもあります。
アトピー性皮膚炎は、ダニやハウスダストなどのアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が皮膚の内部に侵入することで、炎症やかゆみなどが引き起こされます。正常な皮膚は、外界の刺激から体の内部を保護するバリア機能を備えており、アレルゲンの侵入をブロックできます。しかし、アトピー性皮膚炎の皮膚はバリア機能が低下しているため、外からアレルゲンが入りやすくなっており、これらが免疫細胞と結びついて炎症を引き起こします。
皮膚のバリア機能低下の原因として、肌のターンオーバーの乱れ、紫外線によるダメージ、外気の乾燥、物理的な摩擦、ストレス、生活習慣の乱れなどがあります。
また、近年注目されているのが「フィラグリン」というタンパク質の存在です。
フィラグリンは、水分を保って皮膚をしっとりさせる役割を担う「天然保湿因子」を生成することがわかっています。 しかし、アトピー性皮膚炎の場合、正常なフィラグリンが少なくなり、天然保湿因子が十分に産生されないことが主な原因と考えられています。
また、アレルギー反応を引き起こすIgE抗体を産出しやすい体質であることも、アトピー性皮膚炎の発症の原因の一つとされています。大人になってからアトピー性皮膚炎を発症する場合、アトピー素因を持っていた人が社会人になり、生活環境の変化や生活リズムの乱れ、慢性的なストレス、ホルモンバランスの変化によって引き起こされることがあります。
大人でも子どもでも、アトピー性皮膚炎を発症するメカニズムに大差はありません。症状の悪化を防ぐには、日頃のスキンケアと正しい治療で皮膚のバリア機能を正常に保ち、アレルギー原因物質から身を守ることが重要です。
アトピー性皮膚炎の代表的な症状は、かゆみのある湿疹です。赤くなってブツブツができたり、カサカサと乾燥してボロボロ皮がむけたりするのが特徴です。強いかゆみを伴うため、掻いてしまうことでさらに皮疹が悪化するという悪循環に陥るケースが多いです。
湿疹は体の左右対称にあらわれることが多く、年齢とともに湿疹の出やすい部位が変わっていきます。乳児期は頭や顔に現れることが多く、幼児期から学童期は首、わき、肘、膝、手首、足首などの関節のまわりによくみられます。思春期から成人期以降は、顔や首、胸、背中といった上半身に強く出る傾向があります。
アトピー性皮膚炎の状態を把握するために血液検査を行います。血液検査では、好酸球数値、総IgE抗体値、特異IgE抗体値を測定し、アレルギー体質であることや実際のアレルゲンを確認します。アトピー性皮膚炎ではダニに対する特異的IgE抗体が上昇することが一般的です。また血清TARC値(Thymus and Activation Regulated Chemokine)もアトピー性皮膚炎の診断に有効な指標であるとともに、アトピー性皮膚炎の重症度や治療効果を評価する指標としても有効です。
アトピー性皮膚炎は慢性の病気であり、遺伝的な要素をはじめ、さまざまな要因が絡み合っているため、完全に治すことは難しいとされています。そのため、治療の最終目標は症状を抑え、日常生活に支障がない状態を維持することです。
皮膚の正常なバリア機能を保つために、保湿は重要な治療となります。乾燥により皮膚のかゆみも増悪するため、掻きむしった結果、皮膚のバリア機能がさらに低下するという悪循環を防ぐためにも、定期的な保湿が有用です。
ステロイド外用薬には軟膏やクリームなどさまざまな形態があり、作用の強さによって5段階に分類されています。基本的には軟膏が処方されることが多いですが、使用する部位や症状に合わせて適切な薬剤を処方します。
タクロリムス外用薬は、体の過剰な免疫反応を正常に整えて炎症を抑えます。ステロイドとは炎症を抑えるメカニズムが異なるので、ステロイド外用薬でみられる皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用はほとんどありません。そのため、ステロイド外用薬で治療が困難な場合に有効です。
2020年から新たな治療薬として登場したのがJAK阻害薬です。JAK阻害薬は、サイトカインの働きを抑えて、アトピー性皮膚炎の症状をやわらげる効果を期待できます。サイトカインは、細胞内に存在する情報伝達物質です。サイトカインが異常に働くと、免疫反応が過剰に活性化し、かゆみや湿疹などの症状があらわれます。お薬によってサイトカインの働きを抑えれば、免疫の過剰な活性化を抑えて症状を改善することが可能です。生後6ヶ月から使用できますが、JAK阻害薬は重症度が高い患者に対して使用するように決められており、治療費も高額です。1回の使用量が定められてるため、使用にあたっては医師の指示を守りましょう。
アトピー性皮膚炎を疑う皮膚の症状がみられる場合、問診や視診を中心にアトピー性皮膚炎ではない疾患の可能性はないか、慎重に判断していきます。アトピー性皮膚炎の診断において、皮膚症状の正確な把握は非常に重要であるため、全身の皮膚を確認し、必要に応じて写真で記録を残します。また、採血でアレルギー関連の項目を検査し、アトピー性皮膚炎として矛盾がないかを確認します。
採血の結果が出るまでには数日を要しますが、結果が出る前からステロイドを中心とした治療を開始します。皮膚症状のある部位によりステロイドを使い分け、副作用を最小限に抑えながらかゆみや発赤などが日常生活に支障がないレベルまでコントロールできるよう調整します。
また、治療と並行してスキンケアや生活習慣の改善も重要であるため、生活に合わせた指導をさせていただきます。
クリニックでは、ステロイド外用薬でのコントロールが不良の場合には、専門の医療機関への紹介をさせていただいております。アトピーはコントロール不良な状態で長期化してしまうと将来的に色素沈着などを来す可能性もあるため、専門医の意見は重要であると考えています。