白癬は白癬菌というカビが引き起こす皮膚表面の感染症です。皮膚にカビが寄生して発症する皮膚真菌症の割合は新たに皮膚科を受診する方の約12%ですが、そのうちの88%が白癬と言われています。
白癬は発症する部位で名前が異なり、爪白癬や足白癬、股部白癬などがあります。最も多いのは足白癬で、次に多いのは爪白癬です。それぞれの白癬についてみていきましょう。
爪白癬は爪にできる白癬です。季節による増減がなく、常に日本人の約10%、つまり1000万人以上が発症していると言われています。爪白癬は年齢とともに増加し、日本では90歳以上の高齢者男性で50%を超えるという報告があります。
足白癬は足にできる白癬であり、俗に水虫と呼ばれます。感染が増え始める5月には、実に日本人の約20%、5人に1人が発症しているという報告があります。足白癬は夏に増加して冬に減少するので、真夏はより多くの方に感染している可能性が高いです。
股部白癬は外陰部やその周辺にできる白癬であり、俗にインキンタムシと呼ばれます。股部白癬も足白癬のように、夏場のむれる時期が特に発症しやすいと言われています。
白癬の原因である白癬菌は皮膚表面の角層や爪、毛などのタンパク質であるケラチンを栄養にして生きています。白癬菌は増殖する過程で色々な代謝産物を作り、これが抗原になって炎症を引き起こします。発症部位ごとに白癬菌が増える原因をみていきましょう。
爪白癬は、男性の高齢者や足の血行が悪い方、糖尿病の方、免疫が低下している方などによくみられます。足白癬も爪白癬の原因です。感染している方と風呂場などを共有するとうつりやすいです。
足白癬が白癬の中で最も多いのは、足の指の間に湿気がたまりやすく、菌が特に増えやすいからです。温泉場や銭湯、足白癬の方がいる家庭などの床や畳、足拭きマット、スリッパにはほぼ確実に白癬菌がすみついています。また、サラリーマンなど1日中靴を履いている方や、きつい靴を履いている方も発症することが多いです。足の角質に傷がついていると、そこから感染することもあります。
股部白癬は俗にインキンタムシと呼ばれ、女性より男性ではるかに多く発症します。なぜなら陰嚢と太ももの間に湿気がたまりやすいからです。肥満の方や分厚くむれやすい服を着ている方に多く発症します。
白癬にはかゆいイメージがありますが、発症部位によって症状が違うため、それぞれ解説します。
爪白癬は手指の爪よりも足の爪に多くみられます。爪には神経が無いため、感染しても痛みやかゆみはありません。軽い場合は爪が白色や黄色に変色する程度ですが、ひどくなると爪が分厚く変形したりはがれたりします。さらに靴にあたることで痛みや歩きにくさが出たり、爪が浮くことで足先に力が伝わらなかったり、転びやすくなったりします。
爪白癬は一度発症すると治りにくい疾患です。特に糖尿病があると爪やその周辺に細菌が感染しやすく、蜂窩織炎という重篤な感染症を引き起こすことがあります。
足白癬の自覚症状にはかゆみや痛みがありますが、その出現の仕方は人によって大きく違います。また、足白癬は下記の3つの病型があります。
小水疱型と趾間型は涼しくなると自然に症状が治ることが多いです。一方で、角質増殖型は季節的変動がありません。また、角質増殖型は爪白癬を合併していることが多いです。小水疱型と趾間型も治療せずに放置していると爪白癬を合併する可能性があります。
股部白癬では、性器周辺の皮膚がこすれる部位にかゆみをともなう発疹が出現します。発疹は両側の太もも上部の内側まで広がることがあり、再発しやすいです。通常、陰嚢にはほとんど感染しません。かゆみは非常に強くなることがあり、痛みをともなうこともあります。
白癬は症状と皮膚の見た目でおおよその診断ができますが、最終的には検査が必要です。爪白癬、足白癬、股部白癬いずれも顕微鏡検査、または真菌培養を行います。
白癬が疑われる場所から検体をピンセットやハサミなどで採取し、顕微鏡で観察します。顕微鏡で観察する際にはKOH溶液を用いることにより、数分ほどで菌がいるかどうか判断できます。
顕微鏡検査ではっきりしない場合や、普通の白癬菌ではない菌による白癬が疑われた場合には真菌培養を行います。検体は顕微鏡検査と同じように採取しますが、菌の種類の判定には約2週間かかります。菌の種類が特定できると感染の原因が明確になり、白癬の治療と予防に有効です。
白癬では発症部位や症状、基礎疾患、合併症などをもとにして、抗真菌作用のある内服薬と外用薬が処方されます。発症部位ごとにみていきましょう。
爪白癬では、表面の感染で爪の先だけの症状なら削って外用薬を塗れば治癒が期待できます。しかし爪が厚くなっている場合は内服薬が必要です。
基礎疾患や副作用などで内服できない場合はできるだけ濁った爪を削って外用薬を塗りますが、症状は改善しても完全に治らないことも多いです。
足白癬は皮膚の角層のみの感染なので、白癬菌に効く外用薬をきっちり塗れば良くなります。ただ症状がなくても、両足の指の間から足裏全体にかけて最低4週間毎日塗る必要があります。1週間ほどで症状は良くなってきますが、白癬菌はまだ生きていることが多く、中断すると再発してしまいます。
また、角質増殖型では皮膚の下の方まで外用薬が浸透せず、効果が不十分なことが多いです。その場合は内服薬での治療を行います。
股部白癬は外用薬を約2週間塗り続ければ完治することが多いです。難治性や感染が広いときなどは内服薬を4週間ほど服用する場合もあります。
問診でかゆみなど白癬の症状がある場合は視診、触診をさせていただきます。その段階で蜂窩織炎など緊急性を要すると判断した場合は、提携の専門病院にご紹介させていただきます。それ以外の場合は、必要に応じて白癬菌がいるか検査を行います。
白癬菌が見つかれば、患者様のお身体の状況とご希望に合わせて、外用薬や内服薬を処方させていただきます。
一度の検査で白癬菌が検出されないことは珍しくありません。診察で白癬菌を強く疑うが菌が検出されない場合には、局所の炎症を抑える目的で一時的にステロイド外用薬を使用し、再検査を行うことがあります。
どちらにしろ、白癬の治療、特に爪白癬や足白癬は即効性が期待できるものではないため、定期的な通院が必要です。
治療開始後もなかなか症状が改善しない場合は治療薬を変更します。また症状が良くなってもすぐに治療を中断することで再燃する可能性も高いため、治療を終えるタイミングも医師と相談してください。