過敏性腸症候群とは、おなかの調子が悪くなり、便秘や下痢などが長期間続く大腸の疾患です。明らかに症状があるのにもかかわらず大腸にがんや炎症などの疾患がなく、機能のみの異常であるため機能性消化管障害と言われています。英語のIrritable bowel syndromeの頭文字をとってIBSと呼ばれることが多いです。
日本では約10%の方が過敏性腸症候群を発症すると言われています。男性と女性では女性の方が約1.5倍多いです。20〜40歳の方に最も多く、それ以降は年齢とともに減少します。
過敏性腸症候群は前述の通り機能性消化管障害であり、目で見える異常が無いため今も原因は明らかになっていません。しかしながら統計的にさまざまな傾向が見えてきています。
たとえば、感染性胃腸炎後に約10%の方が過敏性腸症候群を発症すると言われています。感染性胃腸炎後に発症しやすい方の特徴は次の通りです。
また、ストレスや心理的な異常も原因に挙げられます。実際にうつ病や不安障害の方は過敏性腸症候群を発症しやすく、逆に過敏性腸症候群の方もうつ病や不安障害を発症しやすいです。ほかには双極性障害や睡眠障害、疲労、腸内細菌、遺伝、ホルモンなども関係があります。
過敏性腸症候群の主な症状は国際的な診断基準であるローマⅣ基準に含まれており、次の通りです。
便通異常のパターンは便秘がちな方から下痢ばかり起こす方までさまざまです。それらは便の見た目とその頻度から、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型の4つのパターンに分けられます。便の見た目は下記のブリストル便形状尺度を用いて判断します。
1・2番目のタイプが便秘型、6・7番目のタイプが下痢型で起こり、混合型はそれらのタイプの便が同じような頻度で起こります。分類不能型は3〜5番目のタイプの便です。
そしてこの型の名前の通りに症状が現れます。便秘型ではストレスによって便秘がひどくなり、下痢型では下痢が生じます。混合型では、下痢が生じたかと思いきや便秘になったりと、便通が変動するのが特徴です。
過敏性腸症候群の診断では前述したローマⅣ基準を用います。しかしそれだけでは確定診断ができず、大腸がんや潰瘍性大腸炎などの器質的な異常が無いかを調べなければいけません。
この器質的な異常を調べるための検査は、そのリスクがあると疑われる方に行います。
たとえば以下のような方は器質的疾患のリスクがあり、大腸内視鏡検査などの大腸検査を行います。
ほかにも、腹部超音波検査や腹部CT検査、上部消化管内視鏡検査、小腸検査などが症状によっては必要です。
また、甲状腺機能の異常や糖尿病の合併症などでもおなかの症状が現れることがあります。したがって上記リスクが無くても、血液検査や尿検査、便潜血検査、腹部単純X線検査などの一般的な検査を行います。
特に危険な症状やリスクが無く、検査でも異常が無い場合はローマⅣ基準だけで過敏性腸症候群を診断することが多いです。
過敏性腸症候群には多くの種類のお薬が存在しますが、まずは生活習慣の改善が完治のためには重要です。規則的でバランスの良い食事をして、十分な睡眠を取ってください。そのうえでお薬を用いた治療を行います。
お薬は2段階に分けて用いられます。1段階目のお薬は次の通りです。
これらのお薬で改善しない場合、下記の2段階目のお薬を用います。
2つの段階のお薬を併用するのも有効です。これらのお薬を1、2ヶ月間内服し、改善すれば治療が終了するか、そのまま治療を継続します。
過敏性腸症候群では診断にも治療にも詳しい問診が非常に重要になります。そのため、本疾患を疑う場合には、当クリニックでは患者様と十分に時間を取ってお話をお伺いします。器質的疾患のリスクがないかを慎重に判断しながら検査を実施、必要に応じて内視鏡検査ができる他院に紹介をさせていただきます。器質的疾患の除外をしつつも、同時に過敏性腸症候群を疑いながら原因が何なのかを患者様とご一緒に考えていき、生活習慣に見直せる部分があれば、その改善策についてアドバイスをいたします。
たとえばアルコールや辛い食べ物などの刺激物は症状の悪化につながるので、控えめにするよう心がけてください。またバナナや野菜、キノコ類など、食物繊維を豊富に含む食べ物を摂取することも効果的です。腸内環境を整えるような食生活を心がけましょう。これらは、器質疾患の除外を進める中でも、同時に実施できる対策になります。1日でも早く、少しでも症状が軽くなるよう、確定診断が得られる前から積極的に取り組んで悪いことはありません。
処方するお薬は患者様それぞれに最適なお薬を見つけられるよう努めています。一度の処方で良好なコントロールが得られなくても、経過を詳しく聞かせていただき、複数のお薬を組み合わせることによって日常生活への影響が少なくなることを目指します。ストレスなど精神的な問題が大きいと医師が判断した場合は、抗うつ薬や抗不安薬などの処方や、必要に応じて心療内科への紹介も検討させていただきます。患者様一人ひとりと寄り添って、少しでも早く改善へと向かえるようにサポートさせていただきます。
おなかの調子がずっと悪いなど、少しでも気になる症状があればお気軽にご相談ください。